転々し、酩酊

すなわち、世界ではまだ何一つ最終的なことは起こっておらず、世界の、あるいは世界についての最終的な言葉はいまだ語られておらず、世界は開かれていて自由であり、いっさいは未来に控えており、かつまた永遠に未来に控え続けるであろう、と。(『ドストエフスキーの詩学』P.333)

『Flyable Heart』桜子ルートの感想

 桜子ルートは、世界を移動してからの話だけで考えると、病人とのラブストーリーの典型だけど、晶が違う世界で経験した桜子との恋愛が持ち込まれることによって典型じゃなくなっている。
 病人モノの典型は、このひとがもしかして死んでしまうかもしれない、そんな人物を本当に愛せるのか? という、愛の強さを描くものだ。晶も実際、桜子が死んでしまう、ということを聞いて葛藤するが、それは本当に愛せるのか? というものではない。晶にはすでに(違う世界で)愛したという経験と、世界移動のときに起きた喪失の感覚があるので、本当に愛せるのか? という葛藤ではなく、本当に愛してもいいのか? というものだ。晶が桜子を愛することで、桜子は自分が死んだときに晶が悲しむかもしれない、と思うだろう、それが重荷にならないだろうか、という葛藤だ。でも、晶は父親との会話がきっかけで、大きな愛で桜子を支えることを選ぶ。
 そして(その愛で)桜子は手術を耐えきる。だが、晶のほうは、唯一の肉親であった父親が死んでしまい、失意にある。手術を耐えた桜子が今度は晶を支えようとする。お互いを支え合う恋人になるのだ。
 実は桜子の心臓のドナー提供者は晶の父親である。晶が桜子を愛で支えようとしたきっかけは父親だし、桜子が生きられたのは父親の(心臓の)おかげだ。ふたりはお互いを支え合うことになるが、その支えのきっかけは父親の置き土産だった、というちょっと感動的なオチだ。だから、最後が父親の眠る墓でのプロポーズなのだ。

追記
 ちょっと穿った見方をすると、病人のもとに、前世から恋人だったんだ的な運命の恋人があらわれる、という物語になる。たしかに、桜子の視点から考えると、晶の存在はかなりロマンチック/陳腐だ。


以下のURLはえろすけに投稿した感想。上記と同一のもの。
http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=11196&uid=kyo0486

追記・推敲 2014/05/15 20:00